雪白姫 むかし昔,冬のさなかのことでした。雪が,ふわりふわりと,空か らまいおりていました。そのとき,どこやらの国の王さまのおきさ きが,黒檀の枠の窓際に腰をおろして,針しごとをしていました。 ところが,こうやって縫いものをしながら,雪を見あげたとたんに, おきさきは,ちくりっと,針で指をつっ突いて,血が三滴,ぽたり ぽたりと雪のなかへ垂れました。すると,白い雪のなかにおちたそ の赤い色が,みたところ,いかにも美しかったので,おきさきは, 「雪のように白く,血のように赤く,窓わくの木のように黒い子ど もがあったら,さぞうれしいでしょうにねえ」と,ひとりでかんが えてみました。その後まもなく,おきさきは女の子をもうけました。 その女の子は,雪のように白く,血のように赤く,それから,黒檀 のように黒い髪の毛をもっていましたので,それで,「ゆきじろひ め」という名前がつきました。そして,この子どもが生まれると, おきさきは死んでしまいました。 一年たって,王様は別の配偶をめとりました。それは美しい女です が,気ぐらいが高く,慢心が強く,きりょうのいいことにかけては, ひとにまけるのが我慢できませんでした。おきさきは不思議な鏡を もっていて,その前へ行って,それに映るじぶんの姿をながめるた んびに, 「かがみや,かべのすがたみや, お国じゅうで,いちばんきりょうのいい女は,だあれ?」 と,声をかけると,鏡は, 「おきさきさま,おきさきさまこそ,お国いちばんのごきりょうよし」 とへんじをすることになっていました。これをきくと,おきさきは 安心しました。鏡はほんとうのことを言うものと,わかっているの ですから。